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奈良地方裁判所 昭和57年(ワ)448号 判決

一 請求原因1ないし3の事実は当事者間に争いがない。

二 イ号物件の構成と本件考案の構成要件とを対比すると、造形片のうち寿字形片11をイ号物件が欠くことは当事者間に争いがないが、原告は、右相違にもかかわらず、イ号物件は本件考案の技術的範囲に属するものであると主張するので、以下、この点について検討する。

1 成立に争いのない甲第二号証(本件実用新案公報)によると、本件実用新案登録請求の範囲には、「各造形片を扇形薄板1の面上に組合わせ所望位置に嵌脱自在に定着して成る贈答品用飾り」と記載されており、「各造形片」とは寿字形片11を含むものであることは、右請求の範囲に「寿字形片11には通孔12を」と記載されていることから明らかであるし、また「扇形薄板1の面上に組合わせ」とあることや「所望位置に嵌脱自在に定着して成る」ことから、直ちに本件考案が各造形片のいずれか一部を欠落させる場合がありうることを当然に許容している趣旨であると一般的に理解することは困難である。

2 しかし、実用新案公報により当該実用新案の権利範囲を確定するにあたつては、公報中の実用新案登録請求の範囲の項記載の文字のみに拘泥することなく、考案の性質、目的または公報の考案の詳細な説明その他の項の記載事項および添付図面の記載をも勘案して、実質的に考案の要旨を認定すべきである(最高裁昭和三七年(オ)第八七一号同三九年八月四日第三小法廷判決・民集第一八巻第七号一三一九頁参照。)から、以上のような点をも考慮しながら本件考案をみるに、

(一) 本件考案の詳細な説明には、「松、竹、梅、寿の字形、水引き、鶴などに造形した飾り片を所望位置に組合わせ嵌脱自在に定着し」と記載されているが、右記載から直ちに水引き、鶴などの造形片と寿字形片11とが置き換えうることが示されているものと解すべき根拠とはなし難く、かえつて右詳細な説明には「水引き、鶴の造形片を成型し夫々に通孔又は突起を設け扇形薄板1に着脱するものである」と記載されているのであつて、通孔のみを設けている寿字形片11と置き換えうるものとは解されない。

(二) 右公報中の添付図面の第一図には寿字形片11を除いた各造形片を定着した実施例が図示されていることからすると、寿字形片11を欠落しうることが示されているように解される余地もあるかのようではあるが、右詳細な説明は、右図の実施例に示されている各造形片の定着する状態を記載した際に、尚書をもつて、「尚寿字形片11は竹片10と花弁片13間に介挿するものである」と記載しており、寿字形片11が右実施例においても欠落されるものでないことを示していることからすれば、右のように解する余地もないものと言わなければならない。

(三) したがつて、右詳細な説明等を考慮しても、寿字形片11を欠落しうる趣旨はうかがえない。

のみならず、右詳細な説明によると、本件考案は贈答品用飾りであつて、「祝物の毛糸、砂糖などに添えると美麗な飾りとなり、デコレーシヨンケーキに添えると好適な飾りとなり」という作用効果を存するものであるところ、美麗な、好適な、とは、各造形片の形状と色彩が組合わさつた立体的構成が作り出す美しさと豪華さであることは明らかであり、本件考案に係る贈答品用飾りの写真であることに争いがない嵌甲第一号証、同第二号証の一ないし三によれば、各造形片の中でも寿字形片11は、その色彩と祝賀の意味を有する文字を形象するというその形状の特異性のゆえに、前記模様が作り出す美しさと豪華さに大きく貢献するものであることは明らかである。それゆえ、いずれの点からみても、寿字形片11は本件考案の必須の構成要件であると認められる。

3 さらに、原告は、いわゆる不完全利用なる理論を主張するけれども、省略しうる構成要件をあえて付したことによつて考案の技術的範囲が縮少する不利益は権利者が負うべきものであるから、右のような理論が妥当なものであるか否かは甚だ疑問であることはしばらく措くとしても、前記のように寿字形片11は、松、竹、梅等の造形片とは異なり、文字として思想内容をも有し、その色彩、形状からして、他の造形片に比して省略しうる重要でない構成要件であるとは認められないし、たんに嵌脱自在に扇形薄板1の所望位置に定着することのみが本件考案の重要な構成要件であつて各造形片の個性を問わないものと解することもできないところである。

4 右詳細な説明及び右図面は本件考案の実施例を詳述しているが、このことから右請求の範囲の記載がいわゆる作用的記載であると解することはできないし、かりにそうであつても、前記のように右実施例も寿字形片11を欠落しているものではないので、原告の主張は採用することができない。

5 したがつて、被告のイ号物件は本件実用新案権の技術的範囲に属するものではなく、被告がその製造販売を業とするとしても、何ら本件実用新案権を侵害するものではない。

三 よつて、原告の請求はその余の判断をなすまでもなく理由がないからこれを棄却する。

〔編註〕本件における実用新案登録請求の範囲は左のとおりである。

合成樹脂材製の扇形薄板に突起及び通孔を設け、合成樹脂材により造型した木の幹片には通孔を、松葉片には盲孔を、竹片には突起と通孔を、寿字形片には通孔を、花弁片には通孔を、芯片には盲孔を夫々設け、各造型片を扇形薄板の面上に組合わせ所望位置に嵌脱自在に定着して成る贈答品用飾り。

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